はじめ
ニーハオ!中華系男子の いっ君 です。
みんな、転売屋と言えばどんなイメージがある?世間的には、価値があるものを独り占めして高値で売る、そんな悪い集団というイメージじゃないだろうか。今回の記事では、身近にある転売屋をテーマにした映画「Cloud クラウド」について感想を書いてみた。
ストーリー
町工場で働きながら転売屋として日銭を稼ぐ吉井良介は、転売のノウハウを教えてくれた高専の先輩・村岡からの儲け話には乗らず、地道に転売を続けていた。ある日、勤務先の工場の社長・滝本から管理職への昇進を持ちかけられるが、吉井はこれを断り、辞職を決意する。そして、郊外の湖畔に事務所兼自宅を借りて、恋人の秋子との新生活を始めることにした。
その後、地元の若者・佐野を雇い、転売業は順調に軌道に乗り始める。しかし、その矢先、吉井の周囲で不審な出来事が次々と起こるようになる。吉井が無意識のうちにばらまいていた憎悪の種は、ネット社会の闇を吸って異常なスピードで成長し、やがてどす黒い集団狂気へと膨れ上がった。
その集団が仕掛ける“狩りゲーム”の標的となった吉井の平穏な日常は、あっという間に崩壊していく。
感想
黒沢清監督の作品は、以前柴咲コウ主演の「蛇の道」を観たことがある。低予算の作品なのに、人間の悪い面を独特な視点で誇張して、味わい深い雰囲気を作るのが特徴だ。この映画「Cloud クラウド」も、まさに黒沢監督らしい仕掛けがいっぱいだった。主演の菅田将暉をはじめ、個性派俳優たちを揃えて、ぶっ飛んだ展開を上手く作り上げていたと思う。
例えば、吉井(菅田将暉)が夜道をバイクで走るシーン。金属の糸が目の前に突然現れた時、背後から何かが襲ってきそうな緊張感がすごかった。自分も思わずハラハラした。また、彼女の秋子(古川琴音)に新居の地図をバスで見せるシーン。背後に黒い影が現れてスマホを覗く描写が出てきた時、息が止まるくらい怖かった。何気ない瞬間にゾクッとする場面が突然やってくる。これが黒沢監督の技で、自分は完全にハマってしまった。こういうサスペンスの仕掛けがたくさんあって、個人的に大好きだ。
映画「Cloud クラウド」は、転売屋の吉井と彼を取り巻く人間たち、そしてその間に起きる事件を描いている。転売屋というのは楽して稼ぐ仕事、そんな印象を持つかもしれないけど、実際はギャンブルみたいなものだと感じた。吉井が最初に電子機器を30台まとめて仕入れた場面。売れる保証もないのに、とりあえず安く仕入れて定価の半額で一気に転売するという大胆な挑戦をしていた。で、出品してたった2分で完売し、600万円の儲けが出た。結果オーライだけど、これが後の恐ろしい展開につながるきっかけになった。
ここでは、吉井を取り巻く3人について、自分の考えを書いてみたい。
まず、町工場の社長。彼は「自己中心的な甘さ」を象徴していると思う。吉井にとって、社長の態度ややり方は理不尽に感じたはずだ。それで、社長の元から逃げ出し、自分の好きなようにやろうと決意した。でも、この決断が甘すぎる。そして、そこから起きた連鎖事件がとんでもないことに発展した。集団に属する以上、甘く見てはいけないという教訓を教えてくれた気がする。
次に、先輩の村岡(窪田正孝)。彼は「ライバル」の象徴だと思う。吉井にとって、憧れや尊敬を感じる相手ではなく、むしろ「俺の方が稼げる」と密かに対抗心を持っていた相手だ。だから、彼を軽んじるような態度を取っていたけど、それも吉井なりのライバル意識の表れだと思った。
最後に、彼女の秋子。彼女は「金銭欲」の象徴だと思う。幸せな家庭やたくさん買い物できる生活に憧れる秋子。その欲望を引き出したのが吉井だ。愛情というより、金銭欲が前面に出ている感じがした。ラストで彼女がクレジットカードを求めて吉井を殺そうとする場面も、この欲望の象徴だと思う。
一人の転売屋の行動が、こんな恐ろしい事件に発展するとは想像もしなかった。黒沢監督の突飛な発想には圧倒される。賛否両論の作品かもしれないけど、自分は面白くて楽しめた。クライマックスの銃撃戦はちょっと茶番ぽく見えたけど、それもまぁ良しとしよう(笑)。
作品情報
- 原題:Cloud クラウド
- 公開年:2024年9月
- 時間:123分
- 監督・脚本:黒沢清
- 配給:東京テアトル、日活
キャスト情報
- 吉井良介:菅田将暉
- 秋子:古川琴音
- 佐野:奥平大兼
- 三宅:岡山天音
- 殿山宗一:赤堀雅秋
- 矢部:吉岡睦雄
- 井上:三河悠冴
- 滝本:荒川良々
- 村岡:窪田正孝